屋内での3D測位精度の向上 (MetCom株式会社との共同研究)
近年の屋内位置情報サービスに対する要求は、2次元から3次元へと拡大しており、正確な高度推定が重要になっています。気圧値を用いた高度推定では、屋外に設置された高度が既知である気象計の気圧とユーザが所持するセンサの気圧情報を照らし合わせることによる高度推定が一般的にされています。
気圧センサのミスキャリブレーションの防止
気圧を用いた高度推定では、端末間のセンサ誤差補正のために、較正が不可欠です。不特定多数の端末の気圧センサを較正するには、標高が既知である自然地形にいるタイミングを利用します。しかし、GNSS情報だけでは歩道橋や高架駅といった人工物上で取得されたものを識別することは困難です。このような地点での誤った較正(ミスキャリブレーション)は、高度推定の精度を大きく損なう要因となります。そこで、ユーザーの端末で一定期間に取得された気圧情報に対して統計的なアプローチを用いることで、適切な較正地点を推定する手法を提案します。これによって、より高精度な高度推定が可能になります。
環境変化に対応するUWB屋内測位 (LINEヤフー株式会社, 東京科学大学との共同研究)
UWBのToFを利用することで、cmの精度でUWBの基地局と受信機の距離を測定でき、cmの精度で屋内測位を実現することができます。しかし、屋内環境には様々な障害物が存在しており、これらの障害物がUWBの基地局と受信機の間に存在すると、距離測定の誤差が増大し、結果的に測位の精度も低下します。このような問題に対応するために、フィンガープリント(FP)方式で屋内測位がよく使用されます。しかし、FP測位は家具レイアウトなどといった環境が変化する時、測位の精度が落ちる場合があります。このような環境変化に対応するために、FPを適時更新する必要があり、その作業量が甚大であることが問題点として知られています。この問題点を解決するために、本研究ではオートエンコーダを用いて、環境変化による影響度を示す異常度の算出によって更新すべきFPをランキング順に選定し、ランキング上位のみのFPを更新することで更新労力を低減させることを目指しています。
更新すべき箇所の特定
右の図は、環境変化発生前の観測データを障害物を追加した環境変化後に使用したFP測位の測位誤差を表しています。ここで、障害物の影響を受けている点は大きな測位誤差が発生していますが、障害物の影響を受けていない点では測位誤差は小さいことがわかります。この特徴を有効に活用するために、環境変化前の測位結果と壁や基地局の位置関係情報をオートエンコーダに特徴量として加えて学習させることで、異常検出器として使用できます。この異常検出器を活用することで、障害物の影響を受けた更新すべき箇所の特定ができます。
更新すべきFPのランキングの選定
特定された更新すべき箇所には、環境変化の影響度を示す異常度がそれぞれ算出されており、異常度の大きさから更新すべきFPのランキング を選定します。選定されたランキング順位の上位のみを更新することで、測位精度の回復に有効な箇所を更新しつつ、FPを全て更新するのに比べ、更新の労力を低減することができます。
壁周辺におけるWi-Fiフィンガープリント測位の精度向上手法
フィンガープリント(FP)とは、電波強度とその電波を測定した場所を組み合わせたデータの集合であり、このFPを用いることで物や人の位置を推定することが出来ます。しかし、FP測位を実施した場合、測位対象となる環境の壁周辺の測位精度が悪くなる(測位結果が中央に寄る:下図)ことが事前実験によって明らかになりました。そのため、この問題を解決するために壁周辺のFPの配置を工夫する手法を提案します。具体的には、壁周辺のFPを中央部よりも多く配置し、FPの密度が中央部から壁周辺へ滑らかなグラデーションとなるように工夫を行います。
データ拡張
GAN(敵対的生成ネットワーク)を用いてFPをデータ拡張し、壁周辺のFP数を増加させます。GANによって新たに生成された壁周辺のFPを用いることで、壁周辺の測位精度の向上を目指します。データ拡張による測位精度の向上が実現すれば、地下街などの周辺部のFPを実測できない場所(仮想的にデータ拡張するしか手段がない場合)にも適用できる可能性があります。