GEO

GEOとはGeotechnology(地理空間情報)を意味する。

地理空間情報を利用し、人や物の測位を行う研究を行う。

ユーザの位置を推定する技術として衛星測位(GPSなど)があるが、ビル構内や地下街などの屋内環境では精度が著しく悪くなってしまう。そこで代わりとなる様々な手法が研究されている。平均的な人は人生の90%を屋内で過ごしているという報告もあり、屋内測位についての研究は私達の生活をより良くしてくれる可能性を秘めている。

Wi-Fi測位では、無線LAN基地局からの電波の強度を用いて現在位置の推定を行う。例えば、事前に無線LAN基地局からの電波の減衰率を計測し、その減衰率を基に計測端末と無線LAN基地局までの距離を算出することで、現在位置を推定する。Wi-Fi測位には、様々な測位方法があります。

特定の位置において、基地局の電波がどのような組合せで、それぞれどのような電波強度で観測されるかを事前に調べておいたもののことをフィンガープリントと呼びます。測位を可能にしたいエリアについて、その全域でフィンガープリントを採集しておく必要があります。観測された基地局の電波情報がそのエリアのどのフィンガープリントと近いかを判断する距離関数を導入し、距離による重みを用いた重心を計算することによって測位が可能になります。

空間内にパーティクルと呼ばれる可能事象(粒子)をランダムに散布して、それぞれの地点の尤度を計算し、現在位置の評価を確率・統計的に実施します。Wi-Fi測位におけるパーティクルが表現する可能事象は、特定の位置に存在するという事象がどの程度可能かを仮説するために導入します。最初の散布はできるだけ広範囲で均等に行います。次に、散布した場所が現在位置であるということが起こりうる尤度を距離関数などを適用し計算します。それを基に、尤度に応じた重みをつけて再度パーティクルを散布(リサンプリング)します。リサンプリングにより現在位置として存在する尤度の高い地点の周辺により多くのパーティクルが散布され、測位計算の分解能が向上することになります。ここで再度、それぞれのパーティクルについて尤度計算を実施し、その尤度の重みで重心を計算することによって推定位置を提示します。

UWBは日本語で「超広帯域無線通信」という意味です。数百MHzから数GHzという非常に広い周波数帯域を使用し、その帯域を利用した短い時間長のパルスを用いることで高速な通信を行うことができます。また、電波干渉が生じにくく、測位に利用した際は誤差がとても少ないために高精度な測位が可能になります。近年ではApple社のAirTagにもUWBが利用されており、ますます注目を集めています。

UWB測位では、電波を用いて電波の送信機と受信機の距離や角度を測定することで位置の計算を行います。距離を測る技術としては電波信号が送信機から受信機に届く時間を利用するToF(Time of Flight)方式があります。また、角度を用いた位置測定の技術としては受信機と送信機の間の角度を利用するAoA(Angle of Arrival)方式があります。AoAで得た角度と受信機間の距離を利用して測位を行います。

加速度センサとジャイロセンサを用いて、測位開始位置からの相対的な進行方向と移動距離を一歩毎に求める測位技術です。スマートフォンに搭載されているセンサを使用するため、インフラの整備が不要です。しかし、測位開始時に測位開始位置と進行方向の入力が必要であったり、長距離歩行により誤差が蓄積し、測位結果に大きなズレが生じてしまうなどの問題があります。

 軌跡の修正方法の一つにマップマッチングというものがあります。事前に歩行可能な通路を線で表現した歩行空間ネットワークを用意することで測位結果を線上に補正します。マップマッチングを利用することで歩けない場所への位置推定を防止できます。

本研究室では、日本で立命館大学にしか導入されていない「MBS」と呼ばれる最新の技術についての研究を行っています。MBSは、測位衛星を地上基地局とするインフラを用いて、GPSなどの衛星測位だけではカバーできない屋内外をともにシームレスでかつ広域に3D測位を可能とする技術です。

MBSでは、屋外に設置された標高が既知である気象計の気圧とユーザが所持するセンサの気圧情報を照らし合わせることで標高の推定を行います。しかし、ユーザが屋内にいる場合では空調によって屋外と気温が異なります。このように、温度や部屋の環境(換気の有無)、端末間の誤差によって測定される気圧値は変化し、基準となる屋外の気象計の気圧値と単純な比較ができないことが考えられます。よって、この問題を解決する手法を考案しています。

UWBのToFを利用することで、cmの精度でUWBの基地局と受信機の距離を測定でき、cmの精度で屋内測位を実現することができます。しかし、屋内環境には様々な障害物が存在しており、これらの障害物がUWBの基地局と受信機の間に存在すると、距離測定の誤差が増大し、結果的に測位の精度も低下します。このような問題に対応するために、フィンガープリント(FP)方式で屋内測位を行う場合があります。しかし、FP方式の屋内測位は、家具レイアウトなどといった環境が変化する時、測位の精度が落ちる可能性があります。このような環境変化に対応するために、FPを適時更新する必要があり、その作業量が甚大であることが問題点として知られています。この問題点を解決するために、本研究ではrandam forestを用いて環境の変化を検知しており、今後は環境変化を検知した後のFPの自動更新について研究を行います。

下の図は環境が変化する場合と環境が変化していない場合において、観測したデータとFPの類似度を示しています。こちらの図からもわかるように、環境が変化していない場合に比べ、環境が変化した後の類似度の値と分散が大きくなる傾向があります。このことから、類似度の最大値、最小値と分散を特徴量としてrandam forestで学習すれば、環境の変化を検知できます。

UWBは高精度な測位ができますが、NLOSの影響で距離測定に正の偏差を導入する可能性があります。LOS/NLOS識別にはUWBが使用されることが多いです。LOS/NLOS識別の考え方に基づいて、ユーザーを障害物とした場合、ユーザーが基地局に向いているかどうかを判断することができます。また、さらに詳細な方向分類を行う必要があります。体で電波が遮られると,Wi-Fi RTTよりもRSSIの変化の方が大きいことを利用し、本研究ではSVMを用いて屋内における携帯端末ユーザの方位を推定します.

ユーザが携帯端末を持っている場合、体が障害物として電波を塞いでいるとNLOSになって電波強度とRTTから推定される電波強度との差が大きくなります。逆に、LOSの場合にその差が小さくなります。測定距離と電波強度の変化の違いを利用し方位推定を行います。下の図では、各基地局に対するユーザの方向を推定するためにSVMを利用し、複数台の分類結果を多数決により統合しユーザが向いている方位を推定します。データの観測時間の時間差による影響により高精度の推定も可能です。

1.ユーザと基地局の相対的方向関係を決定

2.基地局ごとにユーザが向いている方向を推定

3.推定した方向に重みをつけて投票し多数決で方位を推定