Improvised Networks:自律的に再構成するモバイルネットワーク

ユビキタスセンシングネットワーク

一般にセンサネットワークというと、複数のセンサノードを分布させ、各センサノードが取得した環境データを基地局に収集するためのネットワークのことをいいます。例えば、道路交通監視システム、在庫管理システム、農産物の生育管理システムなどがあります。  しかし我々は、センサノードが移動する環境にセンサネットワーク技術を応用することによって、街中を移動する人々に対して広告配信サービスやナビゲーションサービスなどユビキタスサービスの提供を目指し、想定環境を"ユビキタスセンシングネットワーク(USN)"と定義しました。USNでは、人々が携帯電話やPDAのような無線デジタルデバイスを携帯していれば、街中に溢れる有益な情報や自分の興味のあるイベントなどが検索でき、自分が欲するサービスを街中の至るところに存在する情報機器が連携しながら提供してくれるようなユビキタス環境を目指しています。

クラスタプロトコル

クラスタプロトコルとはセンシング対象となるイベントの周辺に存在するセンサノード群で「クラスタ」という一種のグループを形成し、センシングをセンサノード単位ではなくクラスタ単位で自律的に協調するためのプロトコルです。

 イベントを検知したノードがクラスタセンタとなり、周期的にユーザの要求と自分の存在を含んだHelloビーコンを周りのノードに放送し始めます。ビーコンを受け取ったノードはクラスタフロンティアになり、イベントの近くに移動した場合、自律的にクラスタセンタに状態を変えます。  このような処理を行うことで、移動により後からイベントのセンシング範囲に入ってきたセンサノードも、ユーザの要求に応答することができます。

クラスタ内処理機構

 大量のセンサノードが偏在する環境では、地理的に近いセンサノード群のセンシング対象が同一である可能性があります。またUSNでは温度や照度などの低次な情報ではなく、店のバーゲン情報や駐車場の空き状況などシンボリックで高次な情報を対象としています。そのためセンサノード間で互いのセンシング情報が同一であり、かつセンサノード単位でセンシングを行うような形態であった場合、センシングに冗長性が生まれてしまいます。そのような通信の冗長性を省くため、我々はクラスタ内での協調的なセンシングを行うクラスタ内処理機構の研究を行っています。

 クラスタプロトコルによって形成されたクラスタ内のノードの中から1つ、クラスタ内Sinkノード(以下、ICS)を選定します。クラスタ内のノードはそれぞれが個別にセンシングデータを Sinkノードへ転送するのではなく一旦ICSに転送し、ICSがデータ集約後にSinkノードへ転送します。これによって早い段階で通信の冗長性を省くことが可能となり、無線帯域占有率の減少やセンサノードの限られたバッテリー資源の浪費を抑制することができます。

Multi-Hop on Table-Top

 今後、多くの人々やモノなどが無線通信機能を備えた携帯デバイスを所持し、移動することが予想されます。そこで近年、デバイス同士がインフラに依存せず相互通信を行うアドホックネットワークや、分散した多数のノードが周囲状況を観測するセンサネットワークの研究が盛んに行われています。

 それらアドホック/センサネットワークにおける研究成果を評価するには、1台のホストで仮想ノードを作成しシミュレーションする方法と、想定環境下で実機を用いて評価する方法があります。前者はコスト面で優れている反面、実際のプログラムコードやプロトコルが適用できないといった欠点があります。実機で行うことが望ましいですが、アドホック/センサネットワークでは移動性をもつ多数のノードとのマルチホップ通信を想定しており、1ホップが数十メートルの通信範囲をもつ無線携帯端末で実験を行うためには、広大な敷地や人手が必要となります。さらに実験のエリアが広大になるため、各実験者が容易にネットワーク全体を把握できないという問題点も挙げられます。

 そこで、我々は無線携帯端末の実証実験を卓上で行うための評価環境「Multi- Hop on Table-Top」の研究を行っています。本評価環境のメリットとして、卓上までスケールダウンすることによる人手や空間的問題の解決、実際のプログラムコードやプロトコルスタックが適用可能、ネットワーク全体の挙動が容易に確認できることが挙げられます。これにより、従来は人手や場所の面から難しいとされた多数ノードによるマルチホップ通信の実機評価が比較的容易に行うことが可能になります。  具体的には、空間的スケーラビリティや時間的スケーラビリティ、通信プロトコル非依存性といったスケーラブルな評価環境の要件を達成するためのシステムを設計・実装し、他評価環境との比較や性能評価を行っています。