センシング

私たちの身の回りにはたくさんのセンサが存在している。例えば、あまり知られていないが多くの人が利用しているスマートフォンには、8種類ほどのセンサが搭載されている。それらのセンサを利用して様々な情報を取得し、その中から有用な情報をマイニングし活用する。

本研究の主目的は長時間の動態管理の実現である。加速度センサとジャイロセンサは歩行に関する動作だけでなく、日常の様々な行動から影響を受ける。このため、長時間のPDR測位を行うと、大きな誤差が生じる可能性がある。また、多くの電力を消費する問題もある。そこで、機械学習を用いて「歩行状態」「停止状態」「着席状態」の3つの状態に分類し、適切な補正をかけることで、長時間稼働可能なPDRの開発を目指す。

イヤホン型端末を用いて進行方向推定と頭の向きの推定を行うことで、首振りと曲進の混在に頑強なヒアラブル端末PDRの実現を目指す。イヤホン型端末は保持位置が固定であり、姿勢変化による測位への影響も少ない。しかし、頭部の動きによって首振り動作と曲進を同時に行った際に進行方向推定に誤りが生じてしまう。そこで、左右のイヤホンから得られた加速度の差と角速度から首振り動作区間と曲進区間、これら2つの動作が混在している区間を推定し、その推定結果を利用する。

機械学習の発展によって、多段の処理が必要であった従来のPDRに代わり、一つの深層学習モデルで位置を推定するPDRが提案されている。この深層学習PDRは加速度と角速度の値をモデルに入力すると、移動距離と進行方向を出力して位置を推定する。しかし、従来手法は入力時系列の区切り方が機械的(時間単位または歩単位)であるため、人間の歩行特性を活かせていないと私たちは考える。そこで、人の歩行と関連付けてセンサデータを歩より細かく区切り、LSTM(長期的特徴と短期的特徴を学習可能)を使用して学習することでこれまで抽出できなかった特徴を抽出し、位置推定精度を向上させることを目指している。本研究はYahoo!Japan研究所と共同研究を行っている。

PDRの精度向上のために用いられる機械学習は移動距離の推定、進行方向の正解データが必要となる。そこで本研究では、複数のLiDARを使用した骨格推定精度を向上させ、機械学習の教師データに利用できる正確な歩幅の計測手法を提案する。LiDARの点群データをもとに骨格を認識することで、歩幅の推定が可能となる。しかし、単体のLiDARで収集した点群データからでは骨格指定の精度不良が発生する。そこで、各LiDARの精度不良を判定し、適切な座標を取得できているLiDARの組み合わせを選択する手法を提案する。今後は実験で得られた歩幅の精度が歩幅を推定する機械学習に十分であるかを検証し、必要であれば更に向上させることを目指す。

ノイズの多いデータから頑健に学習する研究が盛んになっている。ノイズのあるデータは大きく分けて2種類存在する。データのラベルに誤った値が含まれるラベルノイズと、データの特徴量に誤った推定値が利用されるなどの特徴量ノイズの2つである。これらのうち、特にラベルノイズから学習する研究は数多く行われているが、特徴量ノイズから頑強に学習する手法はまだ十分に研究されていない。そこで、特徴量ノイズを含むデータから学習する新たな機械学習法として、「Feature Noise Robust Contrastive Learning (FNRCL)」を提案した。この手法はContrastive Learningを適用し、比較対象となる既存の手法を大幅に上回る結果を示した。今後の課題としては、特徴量ノイズだけでなくラベルノイズにも対応する手法の開発が求められる。本研究は3年ほど前に始まったYahoo!Japan研究所との共同研究である。